12月1日は世界エイズデーです。
掲載日:2024年11月22日
世界エイズデー(World AIDS Day:12月1日)は、世界規模でのエイズのまん延防止と患者・感染者に対する差別・偏見の解消を目的に、世界保健機関(WHO)が1988年に制定したものです。毎年12月1日を中心に、世界各国でエイズに関する啓発活動が行われています。
エイズとは?
エイズ(acquired immunodeficiency syndrome・AIDS、後天性免疫不全症候群)は、ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus・HIV)の感染によって引き起こされる病気です。HIVは免疫を制御するCD4陽性リンパ球細胞に感染し、その中で増殖します。これらの細胞が徐々に破壊されると免疫力が低下し、健康な人には病気を起こさないような弱い病原体による感染症(日和見感染症)や悪性腫瘍を引き起こし、AIDS発症に至ります。AIDSを発症するまでにはHIVに感染し数年から10年程度を要します。
現在では、治療法の進歩によりHIVに感染した場合でも、早期診断、早期治療することにより、AIDS発症を予防することが可能であり、健常者と同等の生活を送ることができるようになってきています。
発生動向
日本の発生動向調査においてはHIV感染者とAIDS患者を合わせて「後天性免疫不全症候群」として報告されます。2023年の後天性免疫不全症候群新規報告数は960件で、2013年の1,590件をピークに減少傾向でしたが、増加に転じました。2023年のHIV感染者年間新規報告数は669件であり、7年ぶりに増加しました。AIDS患者新規報告数については、2020年に4年ぶりに増加した後、2021、2022年は2年連続で減少していましたが、2023年に増加しました。HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数に占めるAIDS患者の割合は30.3%(前年28.5%)に増加しました。また、自治体が実施する保健所等におけるHIV検査件数の合計は106,137件(前年73,104件)であり、2019年と比較すると少ないものの、4年ぶりに10 万件を超えました。2020年以降の動向については、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う検査機会の減少等の影響により、無症状感染者が十分に診断されていない可能性があります。また、AIDS患者新規報告数の増加は、CD4値が低いHIV感染者における受診機会の遅れを一部反映している可能性があります。(厚生労働省エイズ動向委員会:令和5年エイズ発生動向年報を基に作成)
大阪府における後天性免疫不全症候群の報告は2023年に80件(うち新規HIV感染者は63人、AIDS患者17件)あり、2015年以降減少傾向です。(大阪府:感染に不安のある人は検査を受けましょう(保健所におけるHIV・梅毒等検査は無料・匿名です)を基に作成)
世界では、2023年末現在、新規HIV感染者数は年間約130万人と報告されています。また、63万人がエイズに関連する疾患により死亡しました。(エイズ予防情報ネット:UNAIDS「ファクトシート2024」(日本語訳))
感染経路と臨床症状
感染の主な要因は「性行為」です。日常生活において性行為以外でHIVに感染することはありません。回し飲み、くしゃみ、握手や体に触れるなどの行為ではHIVに感染しません。
感染初期(急性期)では、一過性の発熱、頭痛、倦怠感などのインフルエンザ様症状や筋肉痛、皮疹などがみられることがありますが、数週間で消失します。その後、無症状の期間(無症候期)が長く続きますが、本人に自覚症状がないため、知らないうちに他の人に感染させる可能性があります。
感染が進行して免疫力が低下すると、次第にリンパ節の腫張、体重減少、発熱、下痢、咳などの症状がみられるようになります。
適切な治療をしなければ、感染者には、結核、クリプトコックス髄膜炎、重症細菌感染症といった重篤な感染症や、リンパ腫、カポジ肉腫といった悪性腫瘍が現れます。(エイズ発症期)
治療
作用機序が異なる複数の抗HIV薬を併用する抗レトロウイルス療法(antiretroviral therapy・ART)でHIVの増殖を抑制することができます。2~3種類の抗HIV薬が1錠に入っていて、1日1回1錠飲めば良いだけの薬もあります。ARTでは、HIV感染症を治癒させることはできませんが、体内でのウイルスの増殖を抑制し、免疫機能を高め、感染症と戦う能力を再生することができます。
効果的なARTの継続によって、感染者の血中HIV量(HIV RNA量)が検出限界値(200コピー/mL)未満に最低6ヶ月間抑えられ、それが維持されることにより、性行為による他者への感染が起こらないことが明らかになりました。このことより、U=U(ユーイコールユー:Undetectable = Untransmittable)、すなわち「検出限界以下では感染性が無い」、という新しい概念が近年一般的になりつつあります。(U=U Japan Project)
予防
感染者の治療が二次感染の予防につながることが明らかになっています。しかしながら、自身の感染に気づいていない未治療の感染者も未だ多く存在すると考えられますので、HIV感染を予防するためには、コンドームを使用するなどより安全な性行為を守って行動することが大切です。コンドームを正しく使うことにより、HIVだけでなく他の性感染症も予防できます。
HIV感染症の曝露前予防(pre-exposure prophylaxis: PrEP)は、曝露前の抗HIV薬投与によりHIV感染を予防する方法で、適切に実施すれば99%の予防効果があるといわれています。PrEPは現在、米国、欧州、豪州等の臨床ガイドラインで標準治療として推奨されており、また世界的にも、WHOのガイドラインで推奨されています。我が国では2024年8月に、HIV感染を予防する目的として、ツルバダ配合錠がPrEP薬として薬事承認されました。[令和2~4年度厚生労働省科学研究費補助金(エイズ対策政策研究事業)「HIV感染症の曝露前及び曝露後の予防投薬の提供体制の整備に資する研究」:日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)利用の手引き 第1版及び、国立感染症研究所:首都圏近郊におけるPrEPのエビデンスと疫学的影響を基に作成]
令和2~4年度厚生労働省科学研究費補助金(エイズ対策政策研究事業):「HIV 感染症の曝露前及び曝露後の予防投薬の提供体制の整備に資する研究」(日本におけるHIV感染予防のための曝露前予防(PrEP)-利用者ガイド- 第1版)
検査
HIVに感染しているかどうかを調べるためには、HIV検査を受けるしかありません。HIV検査は全国の保健所等で無料・匿名で受けられます。大阪府と大阪市では、保健所以外に利用しやすい夜間や週末に検査が受けられる検査場(ChotCAST)を開設しています。以下のホームページを参照してください。
大阪府感染症情報センター関連ページ
大阪健康安全基盤研究所関連ページ
参考
国立感染症研究所:病原微生物検出情報(IASR)Vol. 45 p159-161: 2024年10月号
国立感染症研究所: AIDS(後天性免疫不全症候群)とは
お問い合わせ
公衆衛生部 健康危機管理課
電話番号:06-6972-1326