ジビエの住肉胞子虫に要注意
掲載日:2020年6月29日
ジビエとは、狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉のことです。日本ではシカやイノシシによる農林被害が深刻化していることから、それらの捕獲が推進されています。副産物となるジビエは、地域特産品やジビエ料理など食用として利活用が広がっています。一方で野生鳥獣は、人に健康被害をもたらす病原体(細菌、ウイルス、寄生虫等)を保有していることがあり、食用として利用する際には注意が必要です。今回は住肉胞子虫についてご紹介します。
住肉胞子虫で食中毒?
食中毒の原因となるものに寄生虫があります。住肉胞子虫(Sarcocystis fayeri)もその1つで、食物連鎖を利用して生きる寄生性の原虫です。これまでに国内では、住肉胞子虫を原因とするシカ肉による有症事例が5件報告されています。いずれも、生または加熱不十分なシカ肉の喫食が原因でした。多くの場合、喫食後数時間程度(4~8時間)で一過性の下痢、嘔吐等の症状があらわれます。
住肉胞子虫の寄生状況としては、シカ、イノシシ等の野生鳥獣の他、ウマ、ブタなどからも確認されています。日本各地のシカの80%以上が感染していると考えられ、私たちの研究では、7種類の住肉胞子虫(うち3種類は新種)が検出されました(文献1)。
ジビエ喫食による食中毒を予防するために
住肉胞子虫は冷凍処理(-20℃で48時間以上)により失活します。しかしながら、野生鳥獣の筋肉には、人に健康被害を与える他の寄生虫(旋毛虫、肺吸虫、トキソプラズマ等)が感染していることがあります。さらに、野生のシカ肉やイノシシ肉は、E型肝炎ウイルスや腸管出血性大腸菌等の病原体に汚染されていることがあります。このように、野生鳥獣の病原体保有状況は不明な点が多いのが現状です。ジビエによる健康被害を予防するためには、中心部まで火が通るようにしっかり加熱してから食べることが重要です。
住肉胞子虫の生活環
住肉胞子虫の生活環を図1に示します。住肉胞子虫は、肉食動物の消化管で形成された直径約0.02 mmの「オーシスト」として便とともに排泄されます。野外で成熟したオーシストが水や草等とともに草食動物等に摂取されると住肉胞子虫はその筋肉で増殖し、多数の虫体が詰まった「サルコシスト」として寄生します。サルコシストの大きさは0.5 mm前後で肉眼では確認できません。この中にたくさんの住肉胞子虫が詰まっています(図2)。筋肉中での分布は、心臓、もも、背中等、広範囲に及んでいます。
オーシスト・サルコシスト:寄生性原虫の感染型(宿主に感染できる寄生虫の発育段階)です。住肉胞子虫の場合、草食動物の筋肉で発育するサルコシストと肉食動物の消化管で発育するオーシストが、それぞれ肉食動物と草食動物への感染型となります。
参考文献
1.Abe N et al., Morphological and molecular characteristics of seven Sarcocystis species from sika deer (Cervus nippon centralis) in Japan, including three new species, International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife, 10, 252-262, 2019
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