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大阪健康安全基盤研究所

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薬剤耐性菌感染症-PVL産生メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症-

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌について

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)はヒトの鼻腔、皮膚、腸管などに常在している細菌です。多くの場合はヒトに症状を示すことはありませんが、皮膚の傷などから侵入し、膿痂疹、膿瘍、関節炎、骨髄炎、肺炎、心内膜炎、トキシックショック症候群など様々な症状の原因となります。MRSA_Fig

また、1961年にイギリスで、抗菌薬の一つであるメチシリンに対して耐性能を獲得した薬剤耐性黄色ブドウ球菌の存在が報告されました1。この菌はメチシリン耐性遺伝子mecA Staphylococcal cassette chromosomeと呼ばれる染色体上の可動性因子(SCCmec)を持っており、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureusMRSA)と名付けられました。さらにその後、世界中で見つかるようになり、いわゆる「院内感染」を起こす薬剤耐性菌の代表格として医療現場を悩ませ続けています2,3

 

PVL産生株による高病原性MRSA感染症

以前、MRSAの感染は、病院への入院などによる院内感染が一般的とされていました。ところが、1990年代に米国を中心に入院歴のない健康な小児で、MRSAによる壊死性肺炎や敗血症による死亡例が報告され、このような医療とは関係のない患者から見つかったものを市中感染型MRSACommunity-acquired MRSACA-MRSA)と呼ぶようになりました。これに対して従来の院内感染によるMRSAは、院内感染型MRSAHealth-care associated MRSAHA-MRSA)として分類されています。

この分類については、入院歴の有無などの臨床学的な観点や、菌が持つ毒素の有無や遺伝子の型別などの細菌学的な観点から区別する方法が示されています(表1)4。細菌学的には、市中感染型MRSAPVLPanton-Valentine Leukocidin)と呼ばれる白血球破壊毒素を産生することが特徴とされています。この毒素が病態の重症化にどのように関連しているのかはいまだ明らかとはなっていませんが、一般的にPVL産生株によるMRSA感染症は、重症化のリスクが高いとされています。このため、検出されたMRSAが院内感染型か市中感染型か、高病原性かどうか、を評価する上で、PVLの有無が重要な指標の一つとなります。さらにこの他の分類の指標としては、SCCmecMLSTMultilocus Sequence Type)などの遺伝子型別が有用とされています。

PVLを保有する市中感染型MRSAは、様々な環境でヒトからヒトに感染し、主に皮膚・軟部組織感染症を起こす事が報告されています。身近な環境としてはラグビーやレスリング、柔道などの直接、相手と接するいわゆるコンタクトスポーツを行う環境での集団感染事例が報告されています5。予後は基本的に良好ですが、敗血症や肺炎などに移行し、重症化する場合があり、特に、気管などから出血を伴う壊死性肺炎に至った際には、致死率が高いとされています。呼吸器症状を起こすメカニズムについては不明ですが、インフルエンザウイルスやR Sウイルスなど呼吸器症状を示すウイルス感染から続く形で、本菌による肺炎に移行することが報告されており6,7、注意を要する感染症です。MRSA_table

日本での流行状況

日本ではこれまで、PVL保有市中感染型MRSAによる感染症は稀でしたが、近年、その報告例が増えており5,8,9、大阪府内においても2014年以降、複数の検出例があったことがわかりました10。したがって、今後、本感染症の発生動向を把握することが重要だと考えられますが、医療機関におけるMRSAの検出数は非常に多く、市中感染型かどうか細菌学的に分類する方法は一般には行われていません。これまでに当研究所では、拡大が懸念されるPVL陽性の市中感染型MRSAに対応できるように、遺伝子型の解析や、各種病原遺伝子の検出、薬剤感受性試験、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析などの解析体制を構築を進めてきました。今後これらを活用し、大阪府内の医療機関等で検出されたMRSAについての解析依頼、問い合わせなどに積極的に対応できるようにしたいと考えています。

 

 

  1.   Jevons, M. P. “Celbenin” -resistant Staphylococci. Br. Med. J. 1, 124–125 (1961).

  1. Ito, T. et al. Staphylococcal cassette chromosome mec (SCCmec) analysis of MRSA. Methods Mol. Biol. 1085, 131–148 (2014).
  2. Lee, A. S. et al. Methicillin-resistant Staphylococcus aureus. Nat. Rev. Dis. Prim. 4, 1–23 (2018).
  3. 日本感染症学会. MRSA感染症の治療ガイドライン 2019. 日本感染症学会 (2019).
  4. Moriya, M. et al. A risk as an infection route: Nasal colonization of methicillin-resistant Staphylococcus aureus USA300 clone among contact sport athletes in Japan. J. Infect. Chemother. 26, 862–864 (2020).
  5. Liu, C. W., Lin, S. P., Wang, W. Y. & Huang, Y. H. Influenza With Community-Associated Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus Pneumonia. Am. J. Med. Sci. 358, 289–293 (2019).
  6. Lim, W. H., Lien, R., Huang, Y. C., Lee, W. J. & Lai, J. Y. Community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus necrotizing pneumonia in a healthy neonate. J. Microbiol. Immunol. Infect. 47, 555–557 (2014).
  7. Uehara, Y. et al. Regional outbreak of community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus ST834 in Japanese children. BMC Infect. Dis. 19, 1–9 (2019).
  8. Yamamoto, T. et al. Community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus: Community transmission, pathogenesis, and drug resistance. J. Infect. Chemother. 16, 225–254 (2010).
  9. 安楽正輝、河原隆二、山口貴弘、若林友騎、川津健太郎:大阪府で分離されたPVL陽性MRSAの分子疫学的解析, 50回薬剤耐性菌研究会, 静岡県(2021)

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微生物部 細菌課
電話番号:06-6972-1368