A群溶血性レンサ球菌咽頭炎にも気をつけましょう!
掲載日:2023年5月19日
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎とはどんな病気?どんな菌?
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(以下、A群溶レン菌咽頭炎)は、A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes ストレプトコッカス ピオゲネス)による呼吸器感染症です。一般的に潜伏期間は2~5日であり、のどの痛み、発熱、全身倦怠感、嘔吐など様々な症状が見られます。場合によっては咽頭炎、扁桃腺(へんとうせん)炎から始まり皮膚の発疹・イチゴ舌など重篤な症状になる猩紅熱(しょうこうねつ)、リウマチ熱や急性糸球体腎炎を発症することもあります。
また、皮膚に感染した場合は、伝染性膿痂疹(とびひ)や蜂窩織炎(ほうかしきえん)を引き起こすことがあります。特徴的な溶血性レンサ球菌感染症の症状を表1にまとめます。
表1特徴的な症状
猩紅熱 (しょうこうねつ) |
発熱、咽頭炎、扁桃炎に加え、全身に発疹やイチゴ舌(舌がブツブツしたイチゴのようになる症状 )が見られる全身性の症状。 |
伝染性膿痂疹 (でんせんせいのうかしん) |
炎症が強く、痂皮(かさぶた)ができる。接触により簡単にうつり「火事の飛び火のようにあっという間に広がる」ことから「とびひ」と言われる。 |
蜂窩織炎 (ほうかしきえん) |
表皮より下の真皮や皮下組織に生じる炎症 。蜂巣炎(ほうそうえん)とも言う。 |
リウマチ熱 | 関節、心臓、皮膚、神経系に炎症が生じる合併症。抗菌薬による治療が十分に行われなかった場合に起こることがある。 |
急性糸球体腎炎 | 感染後10日前後に血尿、蛋白尿、むくみ(浮腫)尿量減少、高血圧などが見られる一過性の腎炎。 |
A群溶血性レンサ球菌は、球状の菌体がくさりのようにつながった(連鎖状)形態を示すグラム陽性球菌(注1)です。血液を含んだ寒天培地(血液寒天培地)で培養すると、菌が産生する酵素によって赤血球が溶かされるため、菌のコロニーの周囲に、図1のような溶血環が観察されるのが特徴です。
ヒトに病気を起こす溶血性レンサ球菌はA群の他にも、B群やG群などがあります。これらの溶血性レンサ球菌は、まれに壊死性の軟部組織炎(皮膚や筋肉の組織や細胞が破壊されてしまう)、敗血症やショック症状等の様々な症状を呈し、急速に悪化する「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」を引き起こすことがあり、「人喰いバクテリア」とも呼ばれます。また、B群溶血性レンサ球菌は、出産時に母親から新生児に感染し、敗血症や髄膜炎などの重症の感染症を起こすことがあります。
注1:グラム陽性球菌とは 細菌の染色方法の一つとして、グラム染色と呼ばれる手法があります。この方法を用いると、細菌は、外側にある細胞壁の違いにより青紫色と赤色に染め分けられます。青紫色に染まる細菌をグラム陽性菌、赤色に染まる細菌をグラム陰性菌と分類します。また細菌の形によって球状(球菌)、棒状(桿菌:かんきん)、らせん状に分類されます。 |
COVID-19の流行により激減!
A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は、感染症法で五類感染症(定点把握疾患)に指定されています。学童期(小学生)の罹患率が高いため、定点となっている小児科の医療機関から患者数が毎週報告されています。大阪府の感染症発生動向調査(注2)において、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎は報告数が多い感染症で、例年「春から夏」、「秋から冬」に報告数が増加する傾向です(図2)。
注2:感染症発生動向調査とは(参照:厚生労働省HP) 都道府県単位で行われている調査の一つ。感染症の発生動向を継続して把握、分析し、その結果を国民や医療機関関係者に提供することにより、感染症の予防及びまん延防止を図ることを目的としている。 |
COVID-19が流行した2020年以降、報告数は激減しましたが、COVID-19に対する感染予防対策によるものと考えられます(図3)。
これからはA群溶レン菌咽頭炎にも気をつけて!
2023年、A群溶レン菌咽頭炎の報告数が増加傾向にあります(図4)。A群溶レン菌咽頭炎は、家庭に加え、学校などでの感染も多い疾患です。幼児や小学生がいる家庭では、手洗いを行い感染予防に務めましょう。また、抗菌薬が処方された場合には、症状が改善したからといって自己判断で服薬を中止せず、医師の指示通りにきちんと飲み切ってください。
引き続き「手洗い」と「咳エチケット」を!
感染症予防の基本である「手洗い」および「咳エチケット」を引き続き励行し、A群溶レン菌咽頭炎やCOVID-19など呼吸器感染症の予防に努めましょう。
参考
厚生労働省HP:新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について
厚生労働省HP:感染症発生動向調査について
大阪府感染症情報センター
国立感染症研究所HP:「A群溶血性レンサ球菌とは」
厚生労働省HP:咳エチケット
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