薬が効かない結核菌について
結核は昭和初期には日本の死亡原因の1位でした。戦後には結核菌に有効な抗菌薬が次々と発見されたことにより結核患者数は減少しました。2021年には初めて人口10万人あたりの結核患者数が10未満となり、日本は世界的にみて「結核低まん延国」となりました。
【薬が効かない結核菌とは?】
現在ではほとんどの結核は「薬で治せる病気」です。抗菌薬のうち結核の治療に用いられる薬を抗結核薬といいます。使用される抗結核薬のうち最も抗結核作用が強いのがイソニアジド(INH)とリファンピシン(RFP)です。抗結核薬による結核治療では、薬剤耐性結核菌の発生を防ぐためINHとRFPを含む複数の抗結核薬をもちいます。また、体内に結核菌が残るのを防ぐために治療期間は6~9か月間と長期になります。1種類の薬しか服用しなかったり、服薬を途中で止めたりすると薬が効かない結核菌が生き残り、薬剤耐性結核として再発することがあります。薬剤耐性結核菌のなかでもINHとRFPの両方が効かなくなった結核菌は多剤耐性結核菌と呼ばれます。
多剤耐性結核にかかった場合は、分離された多剤耐性結核菌に対して有効な抗結核薬を用いて18か月以上の治療を行います。多剤耐性結核の治療によく使われる抗結核薬にも耐性になった菌を超多剤耐性結核菌と呼びます。2007年の改正感染症法では、超多剤耐性結核菌は「多剤耐性結核菌のうちキノロン系薬剤に耐性かつアミカシン、カナマイシン、カプレオマイシンのどれかに耐性を持つもの」と定義されました。しかし、その後、新しい抗結核薬が開発されたため、2023年の改正感染症法で、超多剤耐性結核菌の定義は「モキシフロキサシン又はレボフロキサシンのうち一種以上およびベダキリン又はリネゾリドのうち一種以上に耐性を持つ多剤耐性結核菌」に変更されました。
【薬剤耐性結核の現状】
2022年の多剤耐性結核菌の割合は、日本全体では0.6%、大阪府では0.8%でした。これらは、世界での割合(2021年の推定値3.6%)より低い割合です。また、INHが効かない結核菌は約4%、RFPが効かない結核菌は1%以下でした(表)。
新しく定義された超多剤耐性結核菌が日本にどのくらい存在するかは不明ですが、ベタキリンやリネゾリドが効かない結核菌の割合は非常に低いといわれています。当所の調査でも多剤耐性結核菌54株のうちリネゾリド耐性の菌株はありませんでした。
このことから、今のところ日本における薬剤耐性結核菌の割合はそれほど高くないと考えていいでしょう。
当所では、VNTR法*という方法で結核菌の遺伝子型を判別しています。この方法で大阪府内の結核患者から分離された多剤耐性結核菌を調べたところ、同じ遺伝子型を示す菌株が複数発見されました。結核菌の遺伝子型が同じ患者は、感染源が同じである可能性が高いと考えられるため、大阪府内では多剤耐性結核が再発によるものだけでなく感染によっても拡がっていると考えられました。薬剤耐性結核が感染により拡がり、発生が増加すると日本でも薬剤耐性結核菌の割合が増加してしまいます。薬剤耐性結核の増加を防ぎ、全ての結核を「薬で治る病気」にするためには、咳や微熱が2週間以上続く場合は結核を疑って受診すること、また結核にかかってしまった場合は主治医や保健師の指示に従って正しく服薬することが大事です。
*:VNTR法:Variable number of tandem repeats法。結核菌の染色体DNAの複数個所での挿入配列数の違いを調べて菌株の異同を調べる方法
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