甘味料で糖質オフ? ~甘味料のメリットとデメリット~
掲載日:2019年8月26日
近年、糖質制限ダイエットの流行とともに、「糖質オフ」や「糖類ゼロ」などと謳われた食品を目にすることが多くなっています。今回は、糖類の代替に使用されている甘味料についてのお話です。
甘味=エネルギー源!
人は食べものから栄養を得て活動しています。味覚はこれを食べても大丈夫か、体に必要かどうかを判断する基準のひとつになります。味覚には、「甘味」「酸味」「塩味」「苦味」「旨味」がありますが、生きていくために不可欠なエネルギー源である糖については、「甘味」を感じて脳内で「おいしい」という快楽が与えられ、本能的に求めて食べるようになります。しかし、過剰に摂食すると、余分なエネルギーが蓄積されて肥満になったり、体内の恒常性が失われて糖尿病になったりします。なお、エネルギー源となる糖は「糖質」とよばれ、デンプンなど多糖類や糖アルコールも含まれますが、そのうち単糖類(ブドウ糖や果糖など)と二糖類(砂糖や麦芽糖など)が「糖類」とよばれます。
甘味料とは
甘味料は食品に甘みをつけるために使われるもので、図1のように分類されています。糖類の代替として用いられる糖アルコールや非糖質系甘味料は、ローカロリーもしくはゼロカロリーですので、ダイエット食品によく使用されています。つまり「糖質オフ」や「糖類ゼロ」と書かれていても、甘い食品を作ることは可能なのです。
甘味の強弱を表すには、官能試験によって測定される「甘味度」という尺度が用いられています。甘味度は、砂糖の甘さを1として判定されます。果糖の1.2を除いて、糖質系甘味料の甘味度は0.2~1.0と穏やかな甘味です。一方、非糖質系甘味料の甘味度は数十~数万もあり、砂糖よりもはるかに甘いため、ほんの少量の使用で甘味をつけることができます。非糖質系甘味料のうち、人工甘味料は高甘味度甘味料ともよばれ、日本では現在、表1に示す甘味料が指定添加物として食品への使用が認められています。
品名 | 甘味度 | 一日摂取許容量(ADI) [mg/kg体重/日] |
使用基準*2の一例 |
アスパルテーム | 100~200 | 40 |
制限なし |
アセスルファムカリウム | 200 | 15 |
菓子:2.5 g/kg 清涼飲料水:0.50 g/kg |
アドバンテーム | 14,000~48,000 | 5 |
制限なし |
サッカリン注) | 200~700 | 5 |
みそ漬,しょう油漬:1.2 g/kg シロップ,清涼飲料水:0.30 g/kg |
スクラロース | 600 | 15 |
菓子:1.8 g/kg 清涼飲料水:0.40 g/kg |
ネオテーム | 7,000~13,000 | 2 |
制限なし |
日本での甘味料の需要*3
日本では、少子高齢化に伴う人口減少、消費者の低甘味・低カロリー志向、さまざまな代替甘味料の登場などにより、砂糖の消費量は年々減少しています。平成元年度には砂糖の総需要量は263万トンありましたが、平成26年度以降は200万トンを割るようになっています(図2)。一方で、人工甘味料の輸入量は年度による変動はありますが、おおむね横ばいであり、スクラロースについては増加傾向を示しています。このように、近年は砂糖に比べて人工甘味料の方が需要は堅調であると言えるでしょう。
人工甘味料の安全性
人工甘味料は化学的に合成されていることから、その安全性について心配される方も多いかもしれません。食品添加物については、多くの試験で安全性が証明された物質と量においてのみ、使用が許可されています。生涯にわたり毎日摂取し続けても影響が出ないと考えられる一日あたりの量を体重1kgあたりで示した値は、一日摂取許容量(ADI)とよばれます。表1より、例えばアスパルテームについては、ADIの上限は40mg/kg体重/日ですので、体重50kgの人の場合は毎日2 gまで摂り続けても問題ないレベルです。アスパルテームの甘味度は約200ですので、砂糖に換算すると400gに相当します。現実的には、とても毎日食べ続けられないと思います。
甘味料のメリット
砂糖以外の甘味料を使用するメリットをいくつか挙げてみます。まず、糖アルコールや非糖質系甘味料は、糖類と異なり微生物によって発酵されない、つまり酸を生成しないことから、う蝕(むし歯)の予防に適しています。また、オリゴ糖(単糖が3~10個結合している糖)は、ビフィズス菌などの腸内善玉菌を増やす効果がある事が確認され、整腸作用が期待されます。これらの甘味料は特定保健用食品の関与成分*4に挙げられています。
人工甘味料は、砂糖よりもはるかに低カロリーで少量でも甘味が強いため、摂取カロリーが節減できること、また食後の血糖値が上昇しないことからも、肥満・糖尿病の予防や治療に有用であると期待されています。
甘味料のデメリット
人工甘味料のデメリットについていくつか挙げてみます。まず、アスパルテームは腸内で代謝されて、アスパラギン酸とフェニルアラニンというアミノ酸に分解されます。このため、フェニルアラニンを代謝するための酵素の活性が生まれつき低い「フェニルケトン尿症」の人には注意が必要です。
通常は、血糖上昇にともなってインスリンが分泌されて糖代謝がはじまりますが、習慣的な人工甘味料の摂取により耐糖能(血糖値を正常範囲に保つ能力)の異常を招き、糖尿病の発症や悪化をもたらす報告が近年増えています*5。これは、人工甘味料の摂取後に血糖値の上昇が起こらないことが要因とされています。そのため、エネルギーの恒常性が崩れ、脳の反応を介して摂食行動が促進されたり、甘味に関する感覚が鈍くなり、より甘い糖質を多く摂取したりするため、むしろ太りやすくなる、と考えられています。また、人工甘味料により腸内細菌叢に変化が起こり、耐糖能異常が引き起こされるとも考えられています。
人工甘味料による肥満や糖代謝への悪影響については、まだ不明な点が多いので、今後も注視していく必要があると考えています。
おわりに
人工甘味料のメリットとデメリットを考えますと、制限のない常用摂取は控えるべきであり、食事全体のカロリーや栄養、味のバランスを考慮した上で活用することが必要と考えられます。大阪健康安全基盤研究所では、食品衛生法にもとづく食品の収去検査を行っており、甘味料の適正な表示について監視しているほか、特定保健用食品の許可試験も行っています。皆さまの健康維持増進に貢献する検査・研究業務を展開しています。
参考資料
*1独立行政法人農畜産業振興機構ホームページ:砂糖以外の甘味料について(クリックするとリンク先が表示されます)*2日本食品科学研究振興財団ホームページ:食品添加物使用基準(クリックするとリンク先が表示されます)
*3農林水産省ホームページ:砂糖及び異性化糖の需給見通し(クリックするとリンク先が表示されます)
*4公益財団法人日本健康・栄養食品協会ホームページ:特定保健用食品表示許可商品一覧(クリックするとリンク先が表示されます)
*5櫻井勝:人工甘味料と糖代謝,糖尿病 59(1): 33~35, 2016(クリックするとリンク先が表示されます)
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