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大阪健康安全基盤研究所

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プラスチック製の器具・容器包装にポジティブリスト制度が導入されます

掲載日:2019年10月29日

プラスチック製の器具・容器包装の安全性をさらに高めるため、2018年6月13日に食品衛生法の一部が改正されました。2020年6月には現在のネガティブリストに加えてポジティブリストが導入され、規制対象物質がおおよそ30から1000物質以上に増えて安全対策が大幅に強化されます。今回はその詳細について紹介します。

器具・容器包装とは?

食品衛生法で規定される器具・容器包装とは、コップ、鍋、スプーン、ペットボトル、缶など、食品に接して使用するものをさします(図1)。また、食品等の製造加工段階で使用する手袋、コンベア、パイプ、陳列販売用のトレイ、敷き紙なども該当します。器具・容器包装は、プラスチック(合成樹脂)、ゴム、金属、陶磁器、ガラス、紙、木など様々な材質から作られていますが、容器包装に占める合成樹脂の割合は重量ベースで65%と非常に高くなっています。今回、ポジティブリストが導入されるのはこの「プラスチック(合成樹脂)」製品のみになります。


図1器具・容器包装の例

食品衛生法第4条

器具:「飲食器、割ぽう具、その他食品または添加物の採取、製造、加工、調理、貯蔵、運搬、陳列、授受または摂取の用に供され、かつ、食品または添加物に直接接触する機械、器具、その他の物をいう。ただし、農業及び水産業における食品の採取の用に供される機械、器具その他の物はこれを含まない。」

容器包装:「食品または添加物を入れ、または包んでいる物で、食品または添加物を授受する場合そのまま引き渡すものをいう」

 

現在のプラスチック製器具・容器包装の規制は?

プラスチックは化学物質から出来ています。ポリスチレン製の使い捨てプラスチックコップを一例として見てみましょう(図2)。これはポリスチレンという「スチレン」がたくさん手をつないだ化学物質が主体になっており、さらに、色や目盛りをつけるための着色剤や、プラスチックの劣化(もろくなったり着色したりすること)を防ぐ酸化防止剤など、様々な添加剤を入れて作られています。化学物質の一部が食品に接した際に溶け出すことがあるため、我々の健康に害を及ぼすことがないように食品衛生法により規格基準が設定されており、ネガティブリスト方式により毒性が強い約30物質の添加量や溶出量が規制されています(食品、添加物等の規格基準:厚生省告示第 370 号)。 


図2ポリスチレン製の使い捨てプラスチックコップ

例えば、有害元素であるカドミウム(Cd)と鉛(Pb)はプラスチックの材質あたり100µg/g以下(0.01%以下)に規制されています。これは100µg/g 以下なら使用しても良いという趣旨ではなく、これ以下の添加では実用性がないため実質使用禁止を意味します。CdやPbを含む着色剤として安価で鮮やかなクロム酸鉛(黄色)、硫化カドミウム(黄色)、セレン化カドミウム(赤色)などがあり、これらが食品用のプラスチック製品に誤用もしくは使用されて違反となった事例が過去にあります。

現在採用されているネガティブリスト制度は、原則として全ての物質の使用を許可した上で、毒性が強い物質について材質含有量や溶出量を規制したものです。この規制方式の短所として、欧米等で使用が禁止されている物質であっても個別の規格基準を定めない限り直ちに規制することができないため、規制が後手にまわるおそれがあります。

ポジティブリスト制度の導入理由は?

ポジティブリスト制度とは、原則として全ての物質の使用を禁止した上で、安全性を評価した物質の使用を許可し、その使用量や溶出量をリスト化したものです。安全性が確保されていない物質が排除されることから、食の安全のレベルを高めることが可能です。欧米や諸外国(インド、中国、オーストラリア、ブラジル等)において採用されており、1000物質以上がリストアップされています。さらに、韓国やタイにおいてもポジティブリスト制度の導入が検討されています。

現状、日本の器具・容器包装は食品衛生法のネガティブリストにより規制されていますが、業界団体による自主規制も日本の器具・容器包装の安全性確保に大きく貢献してきました。合成樹脂製器具・容器包装に関わる業界団体であるポリオレフィン等衛生協議会(30 樹脂対象)、塩ビ食品衛生協議会(ポリ塩化ビニル樹脂対象)、塩化ビニリデン衛生協議会(ポリ塩化ビニリデン樹脂対象)を三衛協と呼び、添加剤、樹脂、色材など1000 を超える物質がポジティブリストに収載され、添加量等が制限されています。実質的に、食品衛生法によるネガティブリストと業界団体によるポジティブリストの二つを合わせることにより欧米とほぼ同等の規制となり、日本の器具・容器包装の安全性を長年にわたり確保してきました。しかし、業界の自主規制はあくまでも会員による任意登録制度であり、非会員には拘束力がありません。ポリオレフィン等衛生協議会において国内の樹脂メーカーと添加剤メーカーはほぼ100%会員であり、製品の登録率もほぼ100%ですが、海外の原材料メーカーの会員は少なく登録も限られています。すなわち、輸入品の多くは業界の自主規制外となっていました。

そこで、国際整合性の確保と、年々増加している輸入品の安全性確保のためにポジティブリストが導入されることになったのです(図3)。


図3ポジティブリスト導入の主な背景

導入されるポジティブリストはどんなもの?

1.対象となる材質

対象となるのはプラスチック(合成樹脂)製の器具・容器包装のみで、ゴム、金属、陶磁器、ガラス、紙、木などは今回の対象ではありません。ただし、図1に示した牛乳パックのように、外側が紙であっても食品接触面に合成樹脂製のシートが貼られている場合はポジティブリスト制度の対象になります。同様に食品接触面に合成樹脂製のコーティングが塗布されている金属缶も対象になります。さらに、印刷に用いられるインキや、ラミネートフィルムの中間層に用いられている合成樹脂や接着剤など、食品に直接接触していなくてもこれらの物質が一定量(健康を損なうおそれのない量=食品あたり0.01 mg/kg(注1))を超えて食品に移行する場合はポジティブリスト制度の対象になります。

2.対象となる物質

対象となる物質は「合成樹脂の基本を成す基ポリマー」と「合成樹脂の物理的または化学的性質を変化させるために最終製品中に残存することを意図して用いられる添加剤」になります。図2で示すところの、ポリスチレンが基ポリマー、Irgafos168が添加剤に該当します。着色料(色材)は、現在のネガティブリストによる着色料の包括的な規制(注2)の考え方が維持され、ポジティブリストに包括的に記載して管理されます。

一方、モノマーの重合反応に用いられる触媒や重合助剤は、最終製品中に残存することを意図するものではないため、ポジティブリストではなく、現在のネガティブリスト方式により管理されます。例えば、現在食品衛生法により規制されているポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂に重合触媒として使用されるアンチモンやゲルマニウムなどがこれに該当します。また、不純物や非意図的生成物も最終製品中に残存することを意図するものではないため、ネガティブリスト方式により管理されます。

3.リスク管理方法

ポジティブリストに掲載される物質は、欧州(EU)では食品への溶出量規制、米国では製品中の含有量(添加量)規制が行われており、欧米ともにポジティブリスト制度が導入されていますがリスク管理方法は整合化されていません。この点については、日本の実態を勘案し、現在業界団体で採用されている含有量(添加量)により管理することを基本として、必要に応じて溶出量やその他必要な制限を規定するとされました。

また、合成樹脂をその特性や使用実態を踏まえて7つの区分にグループ化し、区分に応じて添加剤の添加量等を定めて管理されます。消費量が多いポリエチレン、ポリプロピレン、PETはそれぞれ1つのグループとなり、ポリ塩化ビニル及びポリ塩化ビニリデンはまとめて1つのグループに、その他の合成樹脂はガラス転移温度や吸水率によって分類されました。グループ化の目的として、(1)添加剤の使用の自由度を確保すること、(2)合成樹脂と添加剤の組み合わせを明示化しないことで知的財産権を保護すること、(3)告示の簡便化を図ること、が挙げられています。なお、この合成樹脂のグループ化は欧米では採用されておらず、日本独自のものとなっています。

ポジティブリストの最新の状況

厚生労働省のホームページ(注1)にポジティブリスト案が掲載され、2019年8~9月にパブリックコメントの募集が行われました。現在でも引き続きポジティブリスト案に追加収載・修正が必要な物質について意見を受け付けています。なお、ポジティブリストに掲載される物質数は現時点で約2500を超えるとされています。ポジティブリストに掲載された物質は、内閣府の食品安全委員会による食品健康影響評価(リスク評価)を受ける流れとなりますが、既に国内で販売、製造、輸入、営業上使用されている器具・容器包装に用いられている物質、いわゆる既存物質については、これまでの使用により安全性が一定担保されていることや、使用できない期間が発生すれば市場に支障をきたすことから、ポジティブリスト導入後に食品健康影響評価を行うことを前提に作業が行われています。

おわりに

来年6月にプラスチック製の器具・容器包装に導入されるポジティブリスト制度についてご紹介しました。さらに詳しくお知りになりたい方は厚生労働省のホームページ(注1)や解説(注3)をご覧ください。

大安研では大阪府市を流通する食品用プラスチック製品が食品衛生法に適合しているか監視するために検査をしています。また、皆様の健康を守るために、食品衛生法で規制されていない化学物質についても有害なものが含まれていないか調査研究を行っています。

(注1)厚生労働省ホームページ:食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(外部サイトへのリンク)
( URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05148.html )

(注2)食品、添加物等の規格基準(厚生省告示第 370 号)、第3 器具及び容器包装、A.器具若しくは容器包装又はこれらの原材料一般の規格:「器具又は容器包装は,食品衛生法施行規則則(昭和23年厚生省令第23号)別表第1に掲げる着色料以外の化学的合成品たる着色料を含むものであつてはならない。ただし,着色料が溶出又は浸出して食品に混和するおそれのないように加工されている場合はこの限りでない。」

(注3)尾崎麻子.食品用器具・容器包装の規制をめぐる最新の動向.科学と工業.2019,93,172-179.

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衛生化学部 食品化学2
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