コンテンツにジャンプメニューにジャンプ
大阪健康安全基盤研究所

トップページ > 食の安全 > カカオを含む加工食品からの 小麦タンパク質の改良抽出法について

カカオを含む加工食品からの 小麦タンパク質の改良抽出法について

掲載日:2022年03月01日

特定原材料の検査について

食物アレルギーによる健康被害を未然に防ぐため、平成134月以降、わが国では、アレルギー物質を含む原材料28品目についての表示が推奨され、そのうち卵、乳、小麦、そば、落花生、甲殻類(えび・かに)の7品目については特定原材料として表示が義務化されています(食物アレルギーの原因となる食品の表示についてはリンク先の過去の記事もご利用ください)。

特定原材料の検査では消費者庁による通知(消食表第139号)によって、検査対象となるタンパク質に対する抗体によるELISAEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)がスクリーニング検査として利用されています。

プロアントシアニジンによる測定阻害

加工食品の原材料は多種多様であり、その原材料中には特定原材料の検査を妨害する夾雑成分を含むものもあります。例えば、カカオや落花生、ブドウなどの果実には、その夾雑成分が含まれており、これらに小麦グリアジン(小麦の検査対象となるタンパク質)を添加すると、その回収率が低減することを見出しています1)。この回収率の低下を引き起こすカカオなどには、共通してフラバン-3-オールを基本骨格とするポリフェノールの重合体であるプロアントシアニジン(図1)が含有されていました。

プロアントシアニジンはタンパク質中のプロリンの繰り返し配列との結合能が高いことがこれまでに報告されています2)。小麦グリアジンもプロリンの繰り返し配列を含むため、プロアントシアニジンがこれに結合することで、その回収率の低下をもたらし、測定阻害を引き起こしたと考えられました。

ここでは、プロアントシアニジンによる測定阻害を回避するために開発した改良抽出法3)についてご紹介します。
図1 食品中に含まれるプロアントシアニジンの基本骨格

改良抽出法の最適化

改良抽出法として、プロリンと類似した構造を有する高分子化合物のPolyvinylpyrrolidonePVP)を抽出時に添加することにより、プロアントシアニジンによる測定阻害を軽減できると考え、抽出条件の最適化を行いました。測定阻害が確認された原材料の中でカカオパウダーに小麦グリアジンを5 μg/g添加し、抽出時に重合度の異なるPVPK15K25K30K60K90)を1 %w/v)共存させて評価を行いました。また、PVPの基本骨格となる単量体である1-vinyl-2-pyrrolidoneNVP)とPVPを架橋結合した不溶性のPolyvinylpolypyrrolidonePVPP)についても同様に評価を行いました。小麦グリアジンの回収率を指標として、プロアントシアニジンに結合能が高いPVPの選定とその抽出液への添加濃度について評価しました。

2に示すように、NVPPVPPはプロアントシアニジンによる阻害に対する効果は確認されませんでした。一方、PVPの中では、カカオ中のプロアントシアニジン対して分子量の最も小さいPVP K15(平均分子量10000)による効果が最も高いことが明らかになりました。また、抽出液への添加濃度についても最適化を行い、抽出液に1 % (w/v)添加した抽出液の回収率が最も高いことが確認されました。さらに、条件が最適化された改良抽出法は添加回収試験だけではなく、流通する加工食品や製造工程で混入した小麦タンパク質の検出率の向上にも繋がることも確認されました。

図2 プロアントシアニジンによる測定阻害に対する改良抽出法の評価

今後の研究について

今後は改良抽出法の特定原材料の検査における適用範囲を確認し、特定原材料の検出率の向上に努めて参ります。また、改良抽出法の試験室間での評価に向けた検討を進めていく予定です5)。本研究成果は、科学雑誌「Food Control」の20182月号に掲載されました3)

参考資料

1) JSPS科研費課題番号25860474報告書「測定阻害因子を含む食品からのアレルギー物質の測定法の改良」

https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-25860474/

2) Hagerman, A. E. & Butler, L. G. The specificity of proanthocyanidin-protein interactions. J. Biol. Chem. 256, 4494–4497 (1981).

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021925819694627

3) Satsuki-Murakami, T., Kudo, A., Masayama, A., Ki, M. & Yamano, T. An optimized extraction method for gluten analysis in cacao-containing products using an extraction buffer with polyvinylpyrrolidone. Food Control 84, 70–74 (2018).

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0956713517303717

4) Payne, M. J. et al. Determination of total procyanidins in selected chocolate and confectionery products using DMAC. J. AOAC Int. 93, 89–96 (2010).

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20334169/

5) 厚生労働科学研究データーベース課題番号20KA1001令和2(2020)年度研究報告書

食品衛生検査施設等の検査の信頼性確保に関する研究」

https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/149321

お問い合わせ

衛生化学部 食品化学2
#食品化学2課は,20231月より食品安全課と食品化学課に再編されましたので,
当記事へのお問い合わせはメールでお願いいたします。