イヌサフランとグロリオサ~身近な有毒植物~
掲載日:2022年4月7日
はじめに
食中毒といえば、細菌やウイルスが原因となるものが多いですが、死亡例に限ると天然の毒によるものも少なくありません。フグや毒キノコの他に、有毒植物による死亡例もあるので、確実に食用と分からないものは、決して口にしないことが重要です。
ここでは、観賞植物のイヌサフラン(別名:コルチカム)とグロリオサ(別名:ユリグルマ)を紹介したいと思います。
イヌサフランとグロリオサ
イヌサフラン(図1)とグロリオサ(図2)は、どちらもユリの仲間(ユリ目イヌサフラン科)です。イヌサフランは、地中に球根部をもち、春に細長くてやや幅の広い形状の葉数枚を地上に出します。この葉は夏には枯れて秋には長い花筒(かとう:花の下の茎)を地上に伸ばしてサフランやクロッカスに似た紅紫色の花をつけます。観賞用としては、コルチカムと称されることが多く、球根を購入して栽培することができます。
グロリオサの花は観賞用として人気があり、生花店で目にすることもできます。また、その根を植えることによって栽培することもできます。
イヌサフランとグロリオサによる食中毒
イヌサフランやグロリオサは植物全体(球根、葉、花など)に、有毒な成分(コルヒチン※)が含まれており、これによって激しいおう吐と下痢に加えて白血球の減少などが引き起こされます1)。春に地上に出たイヌサフランの葉は、山菜であるギョウジャニンニクやオオバギボウシの葉(語句1)と似ているため誤って食べてしまうことがあります2)。また、球根をじゃがいもやたまねぎなどと間違って食べた事例も報告されています。グロリオサについては、根が茶色で細長いことから、これを山芋と間違って食中毒になった事例が報告されています3)。イヌサフランによる食中毒は4月から6月に多く発生し、2011~2021年の間に日本国内では11名の方が亡くなっています。また、同期間にグロリオサの誤食と推定される食中毒で亡くなった方も1名報告されています。
※コルヒチンとは
コルヒチンは、イヌサフランやグロリオサなどに含まれる有毒な成分です。熱にも安定であることから、加熱調理をしても分解されないので注意が必要です4)。一方で医薬品にも使用される有用な成分でもあります。医薬品としては、痛風(つうふう)発作(語句2)の予防薬などにも使用されます。また、成長途中の果物に作用させることで種が育つことを止めることができるため、種無しすいかなどの栽培にも利用されることもあります。
さいごに
イヌサフランやグロリオサは、身近な観賞植物ですが、家庭で植えたあとの球根や根を間違って食べることで、重篤な食中毒を引き起こします。このような取り違えを防ぐためにも、観賞用の植物と食用の植物は、植える場所を十分に離すことが大事です。また、イヌサフランやグロリオサだけでなく、キノコ狩りや山菜採りでの食中毒を防ぐために、食用と確実に判断できない場合は、これを採取せず、食べたり、販売したり、また、人にあげたりしないようにしてください。
(語句)
1:ギョウジャニンニクは、アイヌネギとも称され、国内では近畿以北から北海道まで分布します。オオバギボウシは、ウルイとも称され、国内に分布します。いずれも葉を食用とします。
2:痛風は、血液中の尿酸(にょうさん)の濃度が高くなった結果として、足の指の関節などで尿酸が固まりとなり、これが炎症を引き起こした状態です。痛風発作時には炎症により強い痛みを感じます。
大安研ちゃんねる(YouTube)でも「有毒植物」の危険性について解説しています。
<URL>https://www.youtube.com/watch?v=PF_8OfaakII
引用文献等
1)遠藤ら, 日本中毒情報センターで受信したコルヒチン含有植物による急性中毒, 中毒研究, 20, 283 (2007)
2)厚生労働省ホームページ, 自然毒のリスクプロファイル:高等植物:イヌサフラン
3)厚生労働省ホームページ, 自然毒のリスクプロファイル:高等植物:グロリオサ
4)佐藤ら, 有毒植物イヌサフラン調理品中のコルヒチン残留量, 北海道衛生研究所報, 60, 45 (2010)
参考資料
・原色牧野和漢薬草大圖鑑(だいずかん) 監修者 三橋博 北隆館(1988)
・原色牧野植物大圖鑑 離弁花・単子葉植物 編 牧野富太郎 著 北隆館(2001・重版発行)
・衛生試験法・注解2020;コルヒチン, p.301, 日本薬学会, 金原出版(2020)
・最新医学大辞典 第2版, 医歯薬出版株式会社(1996)
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