鶏卵アレルゲンの機器分析について
掲載日:2022年10月3日
本稿では、鶏卵に含まれる主要なアレルゲン(鶏卵アレルゲン)の機器分析について紹介します。
鶏卵アレルギー
鶏卵は、国内における即時型食物アレルギーの原因として、事例数が最も多い食物です [1]。
鶏卵アレルゲンは、6種類が国際分類されており、うち4種類が卵白、2種類が卵黄にそれぞれ存在しています(2022年10月現在)。患者数の多い主要な鶏卵アレルゲンは、卵白に存在しています。
鶏卵アレルギーの発症予防には、鶏卵の摂取回避が重要であり、そのためには食品中のアレルゲンの量や混入の有無を知ることが必要です。
アレルゲン分析法
現在のアレルゲン分析は、Enzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)等の抗体を利用した免疫学的手法が主軸です。ELISAは、迅速簡便、正確なツールとして食品検査で広く活用されており、食品衛生の維持向上に大きな役割を果たしています。
これまでにも当所において、ELISAの改良や開発に多く取り組んできました [2][3]。
しかし、免疫学的手法は、原則、1アッセイにつき1アレルゲンの分析しかできません。そのため、例えば、前述の鶏卵アレルゲン6種類にすべて対応する場合には煩雑な作業が必要で、あまり現実的ではありません。
そこで、一斉分析を得意とする機器分析の強みに着目しました。一度の測定で、複数種類の鶏卵アレルゲンを測定することを目的に、高速液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を利用した効率的な機器分析手法の開発に取り組みました [4]。
機器分析手法のしくみ
開発当初、測定対象は卵白中の鶏卵アレルゲン4種類(オボムコイド、オボアルブミン、オボトランスフェリン、リゾチーム)としました。いずれもタンパクで、高分子化合物です。
タンパクを質量分析計でそのまま測定した場合、その大きさのため、良好な分析データを得られません。
そこで鶏卵アレルゲンを酵素でペプチドに分解し、質量分析計で特異性の高いペプチドを測定しました。試料から抽出された鶏卵アレルゲンは、以下のようにペプチドに分解した後、その濃度をLC-MS/MSで測定します(図1)。
一般に、タンパクはアミノ酸の鎖が折りたたまれた立体構造をもち、そのままでは酵素が作用しにくい状態です。この立体構造を崩す処理から開始します。
1. 還元
還元剤や界面活性剤を利用して、立体構造形成の鍵となるジスルフィド結合(S-S結合)を切断してチオール基(SH基)にする。
2. アルキル化
1に続いてSH基をアルキル化することで立体構造を崩すとともに元に戻ることを防ぐ。
3. 酵素反応
酵素(トリプシン)で鶏卵アレルゲンをペプチドに分解する。
4. 酵素反応停止
ギ酸の添加によりpHを下げ、酵素反応を停止させる。
5. 測定
鶏卵アレルゲンに特異的なペプチドをLC-MS/MSで測定する。
図1 鶏卵アレルゲン機器分析の流れ
実際の手技の様子については、こちらのショート動画をご覧ください。
今後の研究
今回開発した機器分析手法は、生鮮鶏卵と乾燥卵白において、定量法として妥当性が確認され、鶏卵アレルゲン4種類の効率的な濃度測定が可能でした。
今後、この機器分析手法は、様々な種類の調理加工品にも対応できるように改良されることで、主軸の免疫学的手法とともに食品衛生の維持向上に貢献することが期待できます。
これらの研究開発を加速させていけるように、当所では最新の情報を取り入れながら日々努めて参ります。
参考文献
[2] 大阪健康安全基盤研究所ホームページ記事, 「カカオを含む加工食品からの小麦タンパク質の改良抽出法について」(掲載日:2022年3月1日)
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衛生化学部 食品化学2課
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