塩素で消毒できない病原微生物(クリプトスポリジウムとジアルジア)について
掲載日:2024年10月3日
今回は、このような病原微生物の代表例である「クリプトスポリジウム・ジアルジア」について解説します。
クリプトスポリジウムとジアルジア
クリプトスポリジウム、ジアルジアは、ヒトを含む脊椎動物の消化器官に寄生する原虫*¹です。感染したヒトや動物の糞便には、これらが多量に含まれていて、感染源*²,³となります。ヒトが感染した場合、下痢や腹痛などを引き起こすことがあります。健康な人では、2週間ほどで回復しますが、免疫力の低下した人(免疫不全症の人、免疫抑制療法を受けている人、高齢者など)では、死に至ることもあります。水道水を介した感染事故
クリプトスポリジウムやジアルジアは、水道の消毒に用いる塩素に非常に強い耐性を持っています。このため、浄水処理でこれらを除去できなかった場合、水道水を介して感染してしまう可能性があります。実際、世界中で水道水を介した集団感染が発生しています。日本でも1996年に埼玉県内でクリプトスポリジウムの集団感染事故が発生し、送水地域の住民約14,000人のうち約8,800人が感染しました。水道における対策指針の策定
この埼玉県内での集団感染事故等を受けて厚生労働省*⁴は、「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」[1]を策定しました。この指針の中には、水道原水が動物の糞便に汚染されるリスクがあるかどうかを判断し、そのリスクレベルに応じて、これらの原虫を除去できるろ過設備や感染性をなくすための紫外線照射設備を整備する等、浄水処理の徹底が示されています。また、汚染のリスクがある水道原水に関しては、適切な頻度で大腸菌等の糞便汚染の指標菌やこれらの原虫の検査を行うことも示されています。幸いなことに、その後、日本では浄水処理の不具合を原因とした集団感染事故は発生していません。しかし、水道原水や浄水からこれら原虫が検出される事例はまれにある[2]ことから、今後も指針に沿ったリスク管理が行われる必要があります。大阪健康安全基盤研究所では、大阪府内の水道事業体からの依頼を受け、水道原水等を対象にクリプトスポリジウムとジアルジアの検査を行っています。
*1:原虫は単細胞の微生物であり、クリプトスポリジウム等のようにヒトや動物に寄生し病原性を持つものもあります。細菌とは異なり、原虫の細胞には膜におおわれた核があります(真核生物)。
*2:クリプトスポリジウムは、宿主に感染するまで、接合子嚢(オーシスト)という形態で環境中に存在しています。この形態では、水などの環境中で長く生存することが可能ですが、乾燥や熱には弱く環境中で増殖することはできません。オーシストは塩素に対して強い耐性を持っています。
クリプトスポリジウムのオーシスト写真には、7つのオーシストが写っています。
オーシストは、大きさが5μm前後の丸い形をしています。
写真では分かりにくいですが、下図のように4つの鎌形のスポロゾイドが膜に覆われた形態になっています。
動物の消化管内に入ると、その膜が破れて飛び出したスポロゾイドが消化管の細胞に感染します。
*3:ジアルジアの形態には、栄養体(トロフォゾイド)と嚢子(シスト)のステージがあります。シストは、塩素に対して強い耐性を持ち、水などの環境中でも長期間生存できます。また、クリプトスポリジウムのオーシストと同様、乾燥や熱には弱く環境中で増殖することはできません。動物の消化管内で栄養体に変化し感染します。
ジアルジアのシスト
シストは、長径が10μm前後のラクビーボールのような形態をしています。
写真では分かりにくいですが、下図のように、4つの核及びその他の構造が膜で覆われた形態になっています。
*4:令和6年4月1日より水道行政は厚生労働省から国土交通省と環境省に移管されています。
【参考資料】
[1].水道水中のクリプトスポリジウム等対策の実施についての一部改正について/国土交通省ホームページ*4 https://www.mlit.go.jp/common/830005030.pdf
[2].水道におけるクリプトスポリジウム等対策の実施状況について/国土交通省ホームページ*4
https://www.mlit.go.jp/common/830005178.pdf
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