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大阪健康安全基盤研究所

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亜硝酸ガスの動物実験による最小毒性濃度

掲載日:2021年7月12日

はじめに

当研究所のホームページ内の記事1)、2)に記載したように、疫学調査で喘息との関連が認められ、大気汚染物質として規制されている二酸化窒素(NO2)よりも、NO2として検出される未規制の亜硝酸(HONO)の方が喘息に影響する可能性を、我々の小規模疫学調査3)や動物曝露実験4)で示唆しています。
今回は、HONOの最小毒性濃度がどの程度かをモルモットに対するHONO曝露実験で調べた論文5)を紹介します。

最小毒性濃度と環境基準値との関係について

最小毒性濃度を調べることは、環境基準値の決定に役立つ意義があります。環境基準値の決定方法の基本は「閾値のある物質については、物質の有害性に関する各種の知見からヒトに対して影響を起こさない最大の量(最大無毒性量)を求め、さらに不確実係数を考慮して環境目標値の目安とする」6)ことです。式で表すと、環境目標値=最大無毒性量÷(動物種差の不確実係数(1~10)×個体差の不確実係数(1~10))となります。
最小毒性濃度は最大無毒性量(吸入される物質では濃度)の代わりに用いる場合があります。

NO2の環境基準値とHONO濃度について

NO2の環境基準値は「1時間値の1日平均値が0.04 ppmから0.06 ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること」7)です。近年では屋外のNO2は環境基準値を達成していますが、喘息患者数は環境基準値を達成できなかった頃よりも増加傾向にあります。従って、我々はNO2として検出されるHONOについて喘息への影響を調べていますが、HONOは屋外より室内の方が濃度は高い物質です。例えば、HONO濃度(室内-屋外)の最大値は、0.036-0.009 ppm8)や0.021-0.012 ppm9)が報告されています。つまり、室内ではHONOは NO2の環境基準値程度の濃度になり得ます。

HONOの最小毒性濃度

今回の実験5)では、個体差は大きいが呼吸機能への影響が出やすいモルモットに対して0.0、0.1、0.4、および1.7 ppm のHONOを4週間曝露しました。その結果、肺気腫様状態を示す平均肺胞径が1.7 ppm群では有意に増加しました(表1)。分散分析では平均肺胞径の有意差はありませんでしたが(表1)、走査電子顕微鏡での観察では0.1 ppm群も含めHONO曝露群で肺気腫様状態が濃度依存的に観察され、かつ、透過型電子顕微鏡での観察では0.1 ppm群を含むHONO曝露群で、肺胞導の間質に0.0 ppm群では観られない平滑筋細胞の散在が観察されたことから、HONOの最小毒性濃度は0.1 ppm以下であると報告しました。

Fig1

最後に

NO2の環境基準値に関する論文10)では、「科学者が科学データに基づくガイドラインの提案を担当し、政府が独自の基準を確立する責任がある」と述べています。我々は動物曝露実験で肺の組織学的検索結果に基づくHONOの最小毒性濃度を求めました。HONOは大気汚染物質というより室内汚染物質として対応すべき物質かも知れません。なお、HONOを規制するにはさらなるHONOの生体影響に関する研究、特に疫学調査が必要です。


参考文献 

  1. 「二酸化窒素と喘息の関連における亜硝酸ガスの役割」(2020.10.30)https://www.iph.osaka.jp/s012/050/030/020/08/20201030151110.html
  2. 「動物実験による亜硝酸ガスの喘息への影響評価」(2021年2月2日)https://www.iph.osaka.jp/s012/050/030/020/090/20210202150832.html
  3. M. Ohyama, et al. 2019. Association between indoor nitrous acid, outdoor nitrogen dioxide, and asthma attacks: results of a pilot study. Int J Environ Health Res. 29:632-642.
  4. M. Ohyama, et al. 2018. Effects of nitrous acid exposure on baseline pulmonary resistance and Muc5ac in rats. Inhal Toxicol. 30:149-158.
  5. M. Ohyama, et al. 2020. Lowest observed adverse effect level of pulmonary pathological alterations due to nitrous acid exposure in guinea pigs. Environ Health Prev Med. 25: 56. https://environhealthprevmed.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12199-020-00895-0
  6. 環境基準の設定に当たっての考え方https://www.env.go.jp/council/former2013/07air/y070-26/ref04.pdf
  7. 環境省HP https://www.env.go.jp/kijun/taiki2.html
  8. B. P. Leaderer, et al. 1999. Indoor, outdoor, and regional summer and winter concentrations of PM10, PM2.5, SO4(2)-, H+, NH4+, NO3-, NH3, and nitrous acid in homes with and without kerosene space heaters. Environ Health Perspect. 107:223-231. https://doi.org/10.1289/ehp.99107223
  9. Lee K, et al. 2002. Nitrous acid, nitrogen dioxide, and ozone concentrations in residential environments. Environ Health Perspect. 110:145-150. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11836142/
  10. K. Yoshida. 1988. Ambient air quality standards. J Toxicol Sci. 13:262–264.
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衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353