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大阪健康安全基盤研究所

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<論文紹介> わが国で規制される繊維製品中の防炎加工剤の分析法を開発しました

掲載日:2024年6月3日

家庭用品規制法で規制される防炎加工剤3物質

「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」(家庭用品規制法と略す。昭和48年制定)[1] によって、家庭用品へ使用することで人の健康への影響が懸念される21物質を規制しており、防炎加工剤では、APOTDBPP及びBDBPP化合物の3物質(図1)が規制対象となります。動物実験において、APOは経皮・経口毒性が強く、造血機能障害等の特殊毒性が顕著なこと、TDBPP及びBDBPP化合物は変異原性や発がん性を有することから、繊維製品のうち寝衣、寝具、カーテン及び床敷物に対して使用が認められていません。

Fig1

急がれるGC-MSによる試験法の開発

家庭用品規制法では昭和58年までに17物質が規制されましたが、規制開始当時から試験法が改定されていない物質も多く、これら防炎加工剤3物質も例外ではありません。その間の40年にわたる分析機器の進歩はめざましく、規制開始当時に汎用された充填カラムを用いたガスクロマトグラフ(GC)は、今ではキャピラリーカラムを用いたガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)が汎用されるようになり、格段に高感度かつ高精度な分析が可能となりました。そこで、GC-MSによる防炎加工剤の試験法の開発が急がれました。GC-MSへ移行するため、基準値も当時の「検出されないこと」ではなく、機器の性能による定量下限や世界的な規制動向からの数値決定が必要となりました。あわせて、危険な試薬を使用せずに、より安全な試薬へ変更することで、分析者の健康に配慮した試験法に改良する必要がありました。平成29年度より、厚生労働省は、国立医薬品食品衛生研究所を中心とした研究班による家庭用品規制法の試験法の改正に着手しました。その中で、大阪健康安全基盤研究所(大安研)では、防炎加工剤3物質の試験法の改良を分担し、その内容を論文化しました[2, 3] ので紹介します。

Fig2

TDBPP及びBDBPP化合物の分析法開発

家庭用品規制法では、防炎加工剤3物質はそれぞれ個別分析法が採用されている[4, 5]ことから、一斉分析により試験を効率化したいと考えました。しかし、APOは酸性で分解されやすく、BDBPP化合物は塩として存在するため酸性でなければ溶媒抽出できないことから、一斉分析は難しいと考えられました。そこで、同じ部分構造を持つTDBPPBDBPP化合物の分析法の開発を検討しました。TDBPP分析の前処理工程における精製時の溶出溶媒に、発がん性を有するベンゼンが使用されていました。今回、ベンゼンを使用せず、より安全な酢酸エチルによる抽出に変更しましました。また、GC注入口でBDBPP化合物は熱分解するため、メチル化する必要があり、家庭用品規制法ではメチル化剤のジアゾメタンを自家調製していました[4, 5]。しかし、その操作では発がん性のある試薬を用い、またジアゾメタンにも爆発性があり、作業者の安全に懸念があることから、今回、市販の取扱いが簡便で安全なメチル化剤に変更しました。さらに、サロゲート標準物質(TDBPP-d15, BDBPP-d10)を用いて補正することで、TDBPP及びメチル化したBDBPPはいずれも0.58.0 µg/mLの範囲で良好な検量線が得られ、検出限界はTDBPP0.3 µg/g、メチル化したBDBPP0.05 µg/gとなり、規制開始当時の方法による検出限界(各8 µg/g10 µg/g)を十分下回りました。サロゲート補正を用いた添加回収試験では、素材の異なる様々な防炎加工繊維製品についても良好な結果が得られました。ここに、TDBPP及びBDBPP化合物のGC-MSを用いた改良分析法を開発することができました[2]。本分析法については、国立医薬品食品衛生研究所により複数機関で行う妥当性評価試験が実施され、その成果が論文に掲載されました[6]

 

APO分析法の開発

もう一つの規制対象防炎加工剤APOの家庭用品規制法による試験法は、メタノールで還流抽出後、ジクロロメタンに溶媒置換したものを開放系カラムで精製します[4, 5]。ジクロロメタンはヒトへの発がんの恐れだけでなく職業暴露した男性労働者への調査で生殖能への影響が指摘され、中枢神経系や臓器障害が明らかにされたことから、使用しないことが望ましい状況にあります。そこで、ジクロロメタンを使用せずに、アセトンに溶媒置換してSep-Pakフロリジルカートリッジカラムによる精製を行いました。また、APOのサロゲート標準物質(APO-d12)を用いることで、0.012.0 µg/mLの範囲で良好な検量線が得られ、検出限界は0.008 µg/gとなり、規制開始当時の方法による検出限界0.4 µg/g [7]と比べて50倍もの高感度となりました。実際に、様々な素材の防炎加工繊維製品について前処理を行ったところ、カートリッジカラム精製により、分析を妨害する夾雑物を除去でき、添加回収試験ではサロゲートによる補正を施すことで良好な結果が得られました。これらのことから、APOについてもGC-MSを用いた改良分析法を開発することができました[3]。今後、APOに関して、TDBPP及びBDBPP化合物と同様に妥当性評価試験が予定されています。その他の規制対象物質についても、家庭用品規制法の試験法改定に向けた取り組みは順次行われています。

 本調査研究は、厚生労働行政推進調査事業費補助金(化学物質リスク研究事業)「H29-化学-指定-002」及び「20KD2001」により、実施しました。

 

参考文献

[1] 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律、昭和481012日、法律112https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=58084000&dataType=0&pageNo=1

[2] Ooshima T., Kakutani N., Yamaguchi Y., Kawakami T., Yakugaku Zasshi, 142, 279-287 (2022). https://doi.org/10.1248/yakushi.21-00197

[3] Ooshima T., Kawakami T., Yakugaku Zasshi, 144, 119-127 (2024).
https://doi.org/10.1248/yakushi.23-00156

[4] 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律施行規則、昭和49926日、厚生省令第34
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=58086000&dataType=0&pageNo=1

[5] 家庭用品中の有害物質試験法について、令和4328日付け、薬生薬審発03285号・別添https://www.nihs.go.jp/mhlw/chemical/katei/PDF/test_method_supl_220328.pdf

[6] Kawakami T., Ooshima T., Ohyama M., Sugaya N., Nishi I., Yoshitomi T., Takai H., Wakayama T., Ohno H., Tahara M., Ikarashi Y., Yakugaku Zasshi, 144, 463-471 (2024). https://doi.org/10.1248/yakushi.23-00188

[7] Mori K., Nishida S., Harada H., Ann. Rep. Tokyo Metr. Res. Rab. P.H., 28-1, 74-78 (1977).




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お問い合わせ

衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353