蛍光染色法を用いた水環境中の微生物数の迅速測定《微生物を可視化する》
掲載日:2021年10月12日
微生物の検出には、培養法が広く用いられています。本方法には(i) 操作が容易、(ii) 特殊な装置を必要としない、(iii) 低コスト、(iv) 各種の危害微生物に応じた培養条件が確立されている等の特長があります。しかしながら、環境微生物学分野における研究の進展とともに、その課題も明らかとなってきています。すなわち、(i) 環境中には増殖の遅い微生物が存在するため、結果を得るまでに数日から数週間を要する、(ii) 培養条件に適していない微生物は検出が難しい、(iii) 未知の微生物の培養にともないバイオハザードのリスクが増加すること等です。そこで培養に依存することなく微生物を捉えるために、様々な検出・定量法が開発されてきています。
そのような方法の一つとして、微生物を蛍光試薬で染色し検出する方法、すなわち蛍光染色法があります。本手法を用いて試料中の微生物数を測定するには、蛍光染色した微生物を表面が平滑なフィルター上に捕集し、蛍光顕微鏡で直接計数する方法が一般的に用いられます(図1)。生活環境課では、水道水に混入すると下痢を引き起こす原虫であるクリプトスポリジウムやジアルジアの検査に蛍光染色法を用いています。また、計数をより簡便にするために、フローサイトメーターやマイクロ流路システム1, 2)を応用した研究を進めています。
微生物を蛍光染色法により検出する利点としては、短時間に結果を得られることが挙げられます。一般的な染色時間は数分から数十分であることから、検出までに要する時間は1時間以内であり、培養法と比較して、極めて短時間のうちに微生物数を測定することができます。その有用性から、医薬品の規格基準書である日本薬局方に参考情報「蛍光染色による細菌数の迅速測定法」として収載されています3)。
ただし、蛍光染色剤はその性質上、変異原性や細胞毒性をもつものが多くあります。そのためSYBR Safeなど、より安全性の高い蛍光試薬の開発も行われています。またDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)のように細胞内への透過性が高く、ほとんどの微生物を染めることが可能な染色剤がある一方、後述のFDA(fluorescein diacetate)のようにグラム陰性菌を染めにくい試薬やCTC(5-cyano-2,3-ditolyl tetrazolium chloride)のようにグラム陽性菌が染まりにくい試薬もあります。したがって蛍光染色剤を用いる場合には、その染色特性にも十分な注意が必要です。
(1) 全菌数直接測定法
試料中の全微生物数を培養することなく測定するために、DAPIやSYBR Greenなどの核酸結合性の蛍光試薬が用いられます(図1)。蛍光染色に要する時間は数分間です。これらの蛍光染色剤では、微生物の生死にかかわらず検出可能です。
(2) 蛍光活性染色法
試料中の生きている細菌(生菌)のみを迅速に検出するために、CTCなどの蛍光性テトラゾリウム塩やFDA系試薬が用いられます。
CTCは細胞の呼吸により蛍光性の結晶を形成するため、呼吸している細菌はCTCによる染色後に青色励起光を照射すると、赤色蛍光を発します(図2)。生きている細菌を1時間以内に簡便に検出できることから、水試料中の生菌数の測定に用いています4, 5)。
CFDA (carboxyfluorescein diacetate) 等のFDA系試薬は細胞内に普遍的に存在する酵素であるエステラーゼによって蛍光物質に加水分解されるため、エステラーゼ活性をもつ細菌や真菌はCFDAによる染色後に青色励起光下で緑色蛍光を発します(図3)。計数までに要する時間は数分から30分であり、河川水4)や地下水5)の他、医薬品製造用水6)、病院内の手洗い用水7)等の水試料に加え、生薬8)などに存在する生菌数の測定に応用しています。
参考文献
1)N. Yamaguchi, et al. 2020. Rapid on-site monitoring of bacteria in freshwater environments using a portable microfluidic counting system. Biol. Pharm. Bull. 43: 87-92.
2)http://www.iph.osaka.jp/s012/050/010/030/040/20180323143032.html
3)http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/yakkyoku/dl/090930a.pdf
4)N. Yamaguchi, et al. 1997. Rapid in situ enumeration of physiologically active bacteria in river waters using fluorescent probes. Microbes Environ. 12: 1-8.
5)邑瀬章文,他.1999. 蛍光染色法による地下水中の細菌数の迅速な測定.防菌防黴.27: 785-792.
6)M. Kawai, et al. 1999. Rapid enumeration of physiologically active bacteria in purified water used in the pharmaceutical manufacturing process. J. Appl. Microbiol. 86: 496-504.
7)仲島道子,他.1998. 蛍光活性染色法を用いた紫外線殺菌水の衛生微生物学的評価.防菌防黴.26: 245-249.
8)K. Nakajima, et al. 2005. Rapid monitoring of microbial contamination on herbal medicines by fluorescent staining method. Lett. Appl. Microbiol.40: 128-132.
そのような方法の一つとして、微生物を蛍光試薬で染色し検出する方法、すなわち蛍光染色法があります。本手法を用いて試料中の微生物数を測定するには、蛍光染色した微生物を表面が平滑なフィルター上に捕集し、蛍光顕微鏡で直接計数する方法が一般的に用いられます(図1)。生活環境課では、水道水に混入すると下痢を引き起こす原虫であるクリプトスポリジウムやジアルジアの検査に蛍光染色法を用いています。また、計数をより簡便にするために、フローサイトメーターやマイクロ流路システム1, 2)を応用した研究を進めています。
微生物を蛍光染色法により検出する利点としては、短時間に結果を得られることが挙げられます。一般的な染色時間は数分から数十分であることから、検出までに要する時間は1時間以内であり、培養法と比較して、極めて短時間のうちに微生物数を測定することができます。その有用性から、医薬品の規格基準書である日本薬局方に参考情報「蛍光染色による細菌数の迅速測定法」として収載されています3)。
ただし、蛍光染色剤はその性質上、変異原性や細胞毒性をもつものが多くあります。そのためSYBR Safeなど、より安全性の高い蛍光試薬の開発も行われています。またDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)のように細胞内への透過性が高く、ほとんどの微生物を染めることが可能な染色剤がある一方、後述のFDA(fluorescein diacetate)のようにグラム陰性菌を染めにくい試薬やCTC(5-cyano-2,3-ditolyl tetrazolium chloride)のようにグラム陽性菌が染まりにくい試薬もあります。したがって蛍光染色剤を用いる場合には、その染色特性にも十分な注意が必要です。
(1) 全菌数直接測定法
試料中の全微生物数を培養することなく測定するために、DAPIやSYBR Greenなどの核酸結合性の蛍光試薬が用いられます(図1)。蛍光染色に要する時間は数分間です。これらの蛍光染色剤では、微生物の生死にかかわらず検出可能です。
(2) 蛍光活性染色法
試料中の生きている細菌(生菌)のみを迅速に検出するために、CTCなどの蛍光性テトラゾリウム塩やFDA系試薬が用いられます。
CTCは細胞の呼吸により蛍光性の結晶を形成するため、呼吸している細菌はCTCによる染色後に青色励起光を照射すると、赤色蛍光を発します(図2)。生きている細菌を1時間以内に簡便に検出できることから、水試料中の生菌数の測定に用いています4, 5)。
CFDA (carboxyfluorescein diacetate) 等のFDA系試薬は細胞内に普遍的に存在する酵素であるエステラーゼによって蛍光物質に加水分解されるため、エステラーゼ活性をもつ細菌や真菌はCFDAによる染色後に青色励起光下で緑色蛍光を発します(図3)。計数までに要する時間は数分から30分であり、河川水4)や地下水5)の他、医薬品製造用水6)、病院内の手洗い用水7)等の水試料に加え、生薬8)などに存在する生菌数の測定に応用しています。
図1.蛍光染色剤DAPIによる地下水中の全細菌の検出
蛍光染色した細菌を平滑なフィルター上に捕集し、蛍光顕微鏡で観察する
図2.蛍光染色剤CTCによる地下水中の呼吸している(=生きている)細菌の検出
蛍光顕微鏡の同一視野を異なる励起下で観察
紫外線励起下ではDAPI染色により全ての細菌が青色蛍光を発するのに対し、
青色励起光下では呼吸している細菌のみが赤色蛍光を発する
青色励起光下では呼吸している細菌のみが赤色蛍光を発する
図3.蛍光染色剤CFDAによる地下水中の酵素活性を持つ(=生きている)細菌の検出.
蛍光顕微鏡の同一視野を異なる励起下で観察
紫外線励起下ではDAPI染色により全ての細菌が青色蛍光を発するのに対し、
青色励起光下ではエステラーゼ活性を持つ細菌のみが緑色蛍光を発する
青色励起光下ではエステラーゼ活性を持つ細菌のみが緑色蛍光を発する
参考文献
1)N. Yamaguchi, et al. 2020. Rapid on-site monitoring of bacteria in freshwater environments using a portable microfluidic counting system. Biol. Pharm. Bull. 43: 87-92.
2)http://www.iph.osaka.jp/s012/050/010/030/040/20180323143032.html
3)http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/yakkyoku/dl/090930a.pdf
4)N. Yamaguchi, et al. 1997. Rapid in situ enumeration of physiologically active bacteria in river waters using fluorescent probes. Microbes Environ. 12: 1-8.
5)邑瀬章文,他.1999. 蛍光染色法による地下水中の細菌数の迅速な測定.防菌防黴.27: 785-792.
6)M. Kawai, et al. 1999. Rapid enumeration of physiologically active bacteria in purified water used in the pharmaceutical manufacturing process. J. Appl. Microbiol. 86: 496-504.
7)仲島道子,他.1998. 蛍光活性染色法を用いた紫外線殺菌水の衛生微生物学的評価.防菌防黴.26: 245-249.
8)K. Nakajima, et al. 2005. Rapid monitoring of microbial contamination on herbal medicines by fluorescent staining method. Lett. Appl. Microbiol.40: 128-132.
お問い合わせ
衛生化学部 生活環境課
電話番号:06-6972-1353
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