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大阪健康安全基盤研究所

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食品中のピロリジジンアルカロイドについて

掲載日:2023年7月21日

植物にはさまざまな成分が含まれており、ヒトに対して毒性を示すものもあります。今回は、欧州で規制対象となっている「ピロリジジンアルカロイド類」について解説するとともに、日本での規制状況、本研究所における実態調査の結果についても合わせて紹介します。

ピロリジジンアルカロイド類とは 

PA_structure

図1. ピロリジジン環

ピロリジジンアルカロイド(Pyrrolizidine alkaloid、略称: PA)類はピロリジジン環(図1)を有するアルカロイド(植物などが産生する窒素(N)を含む有機化合物)の総称です。これまでにムラサキ科およびキク科などの植物中から600種以上のPA類の存在が報告されています。これらの中には強い毒性を持つものがあり、動物実験の結果からは、DNAの変異、催奇性(さいきせい)および発がん性を示すデータが報告されています [1-3]。含まれるPA類は植物によって異なり、ムラサキ科にはリコプサミンやインターメディンおよびこれらの窒素酸化物、キク科にはセネシベルニン、セネシオニン、セネシフィリン、レトロルシンおよびこれらの窒素酸化物などが、特徴的なPA類としてそれぞれ含まれています(図2)。


ムラサキ科およびキク科植物に含有するPAの一例

図2. ムラサキ科およびキク科植物に含有するPAの一例


 

食品から検出されるピロリジジンアルカロイド類

これまでにハチミツ、茶類などの食品からPA類が検出されています [4, 5]。PA類が検出される要因としては、原料となる植物にもともと含まれている他、ミツバチを媒介とした混入(ハチミツ)、収穫時における非意図的な混入(ハーブや茶)、飼料や飼料原料からの畜産物への移行(乳や肉)が知られています。また特殊な例として、海外では、高濃度のPA類を含む食品が原因と考えられる健康被害も報告されています [6-8]。

そのため欧州連合(EU)では、PA類が含まれる恐れのある食品を高頻度および高濃度で消費する集団、中でも若年層に対する健康悪影響を懸念し、茶、ハーブ、ハーブティー、花粉製品、スパイスなどの特定の食品に対しPA類の基準値を設定しました(2022年より) [9]。

日本においては、食品に対する基準はありませんが、PA類を含む植物であるコンフリー (ムラサキ科ヒレハリソウ属:写真1) の流通・販売を禁止するほか、PA類を含む植物を飼料や飼料原料として使用することを禁止するなどの対応がとられています。

コンフリーの花と葉
写真1. コンフリーの花(左)と葉(右)

ハチミツから検出されたピロリジジンアルカロイド類について

近年PA類による食品汚染について関連する調査や研究が活発化しています。当研究所では市場に流通するハチミツ中のPA類について独自の調査を行いました。その結果、国産および外国産ハチミツから高い検出率でPA類が検出されました。検出濃度はいずれも低く(ハチミツ1 gあたり数ナノグラム)、ヒトの健康に懸念がある量ではありませんでした(大安研ニュース第14号参照)。

さらに植物に含まれるPA類の特徴の違いを利用し、国産ハチミツ中に混入していたPA類がどういった植物から由来するのかを調べてみました。その結果、調査対象となった国産ハチミツのうち、約55%がムラサキ科、約19%がキク科に属する植物からPA類が混入していることを推定しました。また約25%はムラサキ科およびキク科の両植物種からの混入が推定されました(図3)。

国産ハチミツ中に混入していたPA由来植物の推定結果

図3. 国産ハチミツ中に混入していたPA由来植物の推定結果(対象試料数:73)

その他興味深い結果として、ムラサキ科やキク科に属さないアカシアやクローバーを蜜源とするハチミツからもPA類が検出されました。この結果は、ミツバチがアカシアやクローバー以外の花からも一部採蜜していることが要因であると考えています。

今回の調査結果から、ハチミツ中から検出されたPA類の量は、ただちにヒトへの健康に悪影響を与える量ではないことがわかりました。今後も当研究所では予防的観点からハチミツ以外の食品についても、調査を進めてまいります。

参考資料

[1] Frei H et al. (1992) Chemico-Biological Interactions, 83, 1-22.
     https://doi.org/10.1016/0009-2797(92)90088-3
[2] Roeder E (1995) Pharmazie, 50, 83-98.
[3] Chen T et al. (2010) Journal of Applied Toxicology, 30, 183-196.
     https://doi.org/10.1002/jat.1504
[4] Jansons M et al. (2022) Journal of Chromatography A, 1676, 463269
     https://doi.org/10.1016/j.chroma.2022.463269
[5] Chung SWC, Lam ACH (2017) Food Additives & Contaminants: Part A, 34, 1184-1192
     https://doi.org/10.1080/19440049.2017.1319579
[6] Ridker PM et al. (1985) Gastroenterology, 88, 1050-1054.
     https://doi.org/10.1016/S0016-5085(85)80027-5
[7] Stillman AE et al. (1977) Gastroenterology, 73, 349-352.
     https://doi.org/10.1016/S0016-5085(19)32224-3
[8] Kakar F et al. (2010) Journal of Toxicology, 2010: 313280.
     https://doi.org/10.1155/2010/313280
[9] Commission Regulation (EU) 2020/2040 of 11 December 2020 Amending Regulation (EC) No 1881/2006 as  Regards Maximum Levels of Pyrrolizidine Alkaloids in Certain Foodstuffs.
    http://data.europa.eu/eli/reg/2020/2040/oj



お問い合わせ

衛生化学部 食品化学課
電話番号:06-6972-1325