〈論文紹介〉りんごジュースを対象に残留抗生物質試験法を開発しました
掲載日:2024年11月19日
りんごにおけるOTC残留基準
りんご栽培において枝枯細菌病(細菌感染によりりんごの枝が枯れる病害)が発生しており、その防除のためにOTCが散布されています[1]。食品衛生法において、りんごやりんごジュース(ストレート果汁100%)には残留基準0.2 ppmが設定されています。0.2 ppmとは「食品1 gあたりOTC0.2 µgまでの残留を許容する」ことを意味しています。例えば、りんごジュース(ストレート果汁100%)1 gからOTCが0.5 µg検出された場合、その商品は食品衛生法違反で流通禁止・回収となります。既存のOTC試験法の課題
厚生労働省より、食品中の残留農薬試験法が通知されています(以後、通知法)[5]。通知法は未加工果実(例:りんご)を対象としていますが、果実加工飲料(例:りんごジュース)は対象外であることが課題です。そこで今回、りんごジュースを対象にOTC試験法の開発を目指しました。りんごジュースは、ペクチンが除去された「透明タイプ」とペクチンが残存している「混濁タイプ」の2種類が販売されています。本研究では両タイプを対象としました。
開発した試験法について-通知法を改良しました
(1)最初に、通知法をりんごジュースに準用可能であるかを検証しました。その結果、通知法でりんごジュース(混濁タイプ)を試験した場合、精製操作において通液不良となることが分かりました。混濁タイプに残存している「ペクチン」や固相カラムの2種連結部に挟まった「空気」によって通液が妨害された可能性が考えられました。(2)今回、二つの小スケール化を用いて通液良化を企図した試験法を検討しました(以後、小スケール法)。一つは、試料量を半分に減らして「ペクチン」の影響を抑えました。もう一つは、固相カラムを連結せずに1種単独で用いることにより、「空気」による影響を抑えました。小スケール法でりんごジュース(混濁タイプ)試験した際には、通液良好となることが確認されました。
(3)新規開発した試験法で食品検査を行うためには、分析性能(真度および精度)が厚生労働省の目標を満たしている必要があります[6]。厚生労働省の定義では、真度は「十分多数の試験結果から得た平均値と添加濃度との一致の程度」、精度は「指定された条件下で繰り返された独立した試験結果間の一致の程度」を示しています。 小スケール法の分析性能を精査したところ、真度および精度は厚生労働省の示す目標に適合していました。小スケール法は十分な性能を有する試験法であり、検査で運用できるものでした。
今後の取り組み
OTCはりんご以外にも多様なバラ科果実(梅、梨、桃等)に散布されています[1]。現在、多様な果実加工飲料を対象にOTC試験法を検討しています。こうした取り組みを通じて、大阪府内を流通する食品の安全安心の確保に努めてまいります。
本研究の一部は、JSPS科研費20K23248の助成を受けたものです。
参考資料
[1] 内閣府食品安全委員会:動物用医薬品、飼料添加物及び農薬評価書オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン及びテトラサイクリン(第2版)
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000046739_2.pdf (確認日2024年11月6日)
[2] 平田祥太郎 他:日本食品化学学会誌, 28, 138-145 (2021).
https://doi.org/10.18891/jjfcs.28.3_138
[3] 平田祥太郎 他:日本食品化学学会誌, 30, 37-42 (2023).
https://doi.org/10.18891/jjfcs.30.1_37
[4] 平田祥太郎 他:日本食品化学学会誌, 30, 178-183 (2023).
https://doi.org/10.18891/jjfcs.30.3_178
[5]厚生労働省:食品に残留する農薬、飼料添加物又は動物用医薬品の成分である物質の試験法
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/zanryu/zanryu3/siken.html(確認日2024年11月6日)
[6]厚生労働省: 食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの一部改正について
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6662&dataType=1&pageNo=1(確認日2024年11月6日)
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