<論文紹介>放射線が照射された食品を判定する方法を開発~乾燥赤唐辛子編~
掲載日:2023年10月25日
当研究所では、放射線を照射した食品(照射食品)を判定する分析法(検知法)の開発に取り組んでいます。乾燥赤唐辛子を対象にした検知法の論文が、英文学術雑誌『Radiation Physics and Chemistry』誌(放射線物理学、放射線化学、放射線処理における電離放射線を含む研究開発に関するジャーナル)に掲載されました[1]。
食品に対する放射線照射の現状と検知法について|大阪健康安全基盤研究所 (iph.osaka.jp)
既存の照射食品の検知法は、適用できる食品に制約があります。当研究所では、多様な食品に適用できるような検知法の開発を目指しています。検知法は、DNA中の2'-デオキシチミジン(dThd)残基から放射線の照射によって生成された5,6-ジヒドロチミジン(DHdThd)残基を指標にします。
DHdThd残基をもつDNAを酵素によりヌクレオシドまで分解し、液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)で測定します。LC-MS/MSがあれば照射食品の判定が可能です。当研究所で独自に開発中の検知法を、指標(5,6-ジヒドロチミジン)の名称から、ジヒドロチミジン法と名付けています。
諸外国で許可されている食品に照射するエネルギーは、吸収線量(kGy)で示されます。殺菌、殺虫、発芽防止などの照射の目的と食品の種類に応じて、照射されるエネルギーが異なります。
当研究所では、これまでに殺菌を目的に照射された動物性食品(牛生レバー、牛肉、えび)の検知法を開発してきました。このたびご紹介する論文[1]では、乾燥赤唐辛子を対象に検知法を開発したものです。これにより、従来の動物性食品以外に、植物性食品についても検知できるようになりました。
DHdThdはdThdから生成するため、dThdに対するDHdThdの濃度比をプロットしました(図2)。この濃度比を検知指標としています。線量の増加に伴って、検知指標が増加する傾向が確認されました。照射翌日および照射後冷凍保管し671日目に抽出したDNAについて検知指標を比較したところ、近似した値が得られました。さらに、図2に示したとおり、線量と検知指標の間に、明確な直線性の線量依存の関係が確認されたことから、試料に照射された線量を推測することも期待されます。
20種類以上の市販されている乾燥赤唐辛子を調査したところ、放射線が照射されていない乾燥赤唐辛子から、DHdThdが極微量に検出された試料がありました。自家栽培品の赤唐辛子で検証したところ、極微量に検出されたDHdThdについて、高温での乾熱乾燥が原因であることが推定されました。また、極微量に検出されたDHdThdについて検知指標を算出したところ、照射試料とは明確に区別できる値でした。したがって、照射履歴の判定において支障がないことが確認できました。
https://doi.org/10.1016/j.radphyschem.2021.109849
[2] 林徹. 食品・農業分野の放射線利用. 東京, 幸書房, 2008, p. 76. (ISBN978-4-7821-0322-7)
1.検知法開発の取り組み
照射食品について、当研究所のホームページ記事「食品に対する放射線照射の現状と検知法について」(2019年12月23日に掲載)に触れていますのでご参照ください。当研究所での検知法開発に向けたこれまでの取り組みについてもご紹介しています。食品に対する放射線照射の現状と検知法について|大阪健康安全基盤研究所 (iph.osaka.jp)
既存の照射食品の検知法は、適用できる食品に制約があります。当研究所では、多様な食品に適用できるような検知法の開発を目指しています。検知法は、DNA中の2'-デオキシチミジン(dThd)残基から放射線の照射によって生成された5,6-ジヒドロチミジン(DHdThd)残基を指標にします。
DHdThd残基をもつDNAを酵素によりヌクレオシドまで分解し、液体クロマトグラフタンデム型質量分析計(LC-MS/MS)で測定します。LC-MS/MSがあれば照射食品の判定が可能です。当研究所で独自に開発中の検知法を、指標(5,6-ジヒドロチミジン)の名称から、ジヒドロチミジン法と名付けています。
諸外国で許可されている食品に照射するエネルギーは、吸収線量(kGy)で示されます。殺菌、殺虫、発芽防止などの照射の目的と食品の種類に応じて、照射されるエネルギーが異なります。
当研究所では、これまでに殺菌を目的に照射された動物性食品(牛生レバー、牛肉、えび)の検知法を開発してきました。このたびご紹介する論文[1]では、乾燥赤唐辛子を対象に検知法を開発したものです。これにより、従来の動物性食品以外に、植物性食品についても検知できるようになりました。
2.放射線照射した乾燥赤唐辛子の検知
日本ではじゃがいもの芽止め以外に食品への放射線の照射は認められていませんが、諸外国では香辛料の殺菌に照射が実用化されています[2]。そこで、国内で消費量が多く馴染みの深い乾燥赤唐辛子(鷹の爪)を代表食品として選び、検知法の開発を目指しました。DNA中に生成したDHdThdを確認するための第1段階は、食品からDNAを抽出することです。動物性食品を対象にした従来のDNA抽出法(フェノールとクロロホルムを用いた方法またはヨウ化ナトリウムを用いた方法)によりDNAを抽出することは困難でした。そこで、遺伝子組換え検査で使用されるDNA抽出キット(QIAGEN製Genomic-tip)を活用しました。乾燥赤唐辛子2 gからDNAを400 μg以上抽出でき、照射を明確に判定できるだけのDNAを採取できました。抽出したDNAの純度も良好でした。第2段階として、乾燥赤唐辛子から抽出したDNA 80 μg相当を3種類の酵素で分解しました(DNA分解液)。最後に、DNA分解液を限外膜で濾過後、LC-MS/MSで測定しました。LC-MS/MSで得られたクロマトグラムの一例を示しました(図1)。放射線を照射した試料で、標準品と一致した時間にDHdThdの異性体に基づく(5S)-DHdThdおよび(5R)-DHdThdの2本のピークが検出されました。DHdThdはdThdから生成するため、dThdに対するDHdThdの濃度比をプロットしました(図2)。この濃度比を検知指標としています。線量の増加に伴って、検知指標が増加する傾向が確認されました。照射翌日および照射後冷凍保管し671日目に抽出したDNAについて検知指標を比較したところ、近似した値が得られました。さらに、図2に示したとおり、線量と検知指標の間に、明確な直線性の線量依存の関係が確認されたことから、試料に照射された線量を推測することも期待されます。
20種類以上の市販されている乾燥赤唐辛子を調査したところ、放射線が照射されていない乾燥赤唐辛子から、DHdThdが極微量に検出された試料がありました。自家栽培品の赤唐辛子で検証したところ、極微量に検出されたDHdThdについて、高温での乾熱乾燥が原因であることが推定されました。また、極微量に検出されたDHdThdについて検知指標を算出したところ、照射試料とは明確に区別できる値でした。したがって、照射履歴の判定において支障がないことが確認できました。
図1 非照射試料と照射試料の比較
図2 乾燥赤唐辛子の検知指標(n = 3)
3.まとめと今後の展望
ジヒドロチミジン法は動物性食品および植物性食品の双方に適用可能であることが示されました。検疫処理(殺虫)や芽止め目的で行った低線量(概ね0.03~1 kGy)で照射された食品にも適用できるように、今後、多様な食品かつ広範囲の線量に適用できる検知法を構築する予定です。参考文献
[1] Fukui, N., Fujiwara, T., Furuta, M., Takatori, S., Detection of gamma-irradiated red peppers using a combination of 5,6-dihydrothymidine and thymidine as irradiation indicator. Radiat. Phys. Chem., 191, 109849 (2022).https://doi.org/10.1016/j.radphyschem.2021.109849
[2] 林徹. 食品・農業分野の放射線利用. 東京, 幸書房, 2008, p. 76. (ISBN978-4-7821-0322-7)
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衛生化学部 食品化学課
電話番号:06-6972-1325
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